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もっともっと。
そう思ったけれど、唇はそっと離れて。
「またね」
「うん」
わたし達はゆっくりと離れた。
もう、言葉になんてしなくていいのかな。
その思った。
けれど、わたしが車を降りてドアを閉めた時、パワーウインドウが開いた。
ハンドルに手を掛けた緒方君が少しだけこちらに身を乗り出して、フッと笑った。
「翠川さん」
ちょっぴり妖艶な笑みにドキッとさせられながらわたしが「なあに?」と車の中を覗くと。
「僕は、仕事を頑張る君も、好きだよ」
好き?
思いがけずもたらされた言葉の意が直ぐに理解できないわたしを残し、緒方君は「また連絡する」と微笑み掛けて助手席の窓を閉め、去って行った
走り去る白いセダンが見えなくなるまで見送るわたしの胸に押し寄せるのは、期待、不安、希望――。
言葉では言い表せない。
〝好き〟はどんな意味? どう受け取っていいの?
緒方君、ずるい。
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