89人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
わたしに、なにも言わせないで。
わたしの応えも、聞かないで。
次に会った時はなんて言ってやろうかしら。
そんな風に思いながらも、わたしは胸に浮き立つような感情が湧くのを感じていた。
それは、これから訪れる何かの予感に期待する、胸の鼓動。
浮かれる感情が声に現れないよう、ドアの前でパンッと頬を叩いて、わたしは事務所の中に入った。
「ただいまもどりましたー」
事務所には、蓉子先生もこのみさんもいた。
「菊乃ちゃん、お帰りなさい」
明るく出迎えてくれたこのみさんの奥、デスクに座る蓉子先生はくわえタバコで難しい顔で何かを呼んでいた。
その姿を見たわたしの胸に、一抹の不安が過る。
なんだろう。
わたしが自分のデスクに着いた時、蓉子先生が顔を上げた。
「菊乃、ちょうといいところに帰って来たわ。
今電話しようと思っていたところよ」
そう言って、蓉子先生が今読んでいた書類をわたしに差し出した。
先生の傍に行き、受け取った書類を見たわたしの顔が固まった。
最初のコメントを投稿しよう!