カルテ9 深大寺

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「この案件、私が変わろうか」  救いの神から天の声かと思ってしまった。 到底敵わない相手に立ち向かったって、クライアントに迷惑がかかるだけかもしれない。 それならいっそのこと丸投げしてしまえば――そう考えた時、でも待って、とわたしの思考にもう一人のわたしがストップを掛けた。  ここで近藤さん夫婦のことを蓉子先生に丸投げしてしまったら、本当にこの夫婦は終わってしまう。 もっと違う何かの方法がある筈なの。 今こんな中途半端な形で投げ出して逃げてしまったら、わたしはこの先後悔する。  玲さんは怖い。 きっと、これからもっと非情な手段でわたしを潰しにくる。 でもここで逃げてしまったら、わたしはいつまでも甘ったれのまま。 蓉子先生の影でぬくぬく守られたまま。  自立したいの。 もっと、仕事が出来るようになりたいの。 これからもっと、色々な問題を抱えた人の力になれる弁護士になりたいの。  そう思った時、わたしの脳裏にフッと緒方君の姿が過った。 『僕が、助けてあげるから――』  ありがとう、緒方君。 その言葉があるから、頑張れる。
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