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「この案件、私が変わろうか」
救いの神から天の声かと思ってしまった。
到底敵わない相手に立ち向かったって、クライアントに迷惑がかかるだけかもしれない。
それならいっそのこと丸投げしてしまえば――そう考えた時、でも待って、とわたしの思考にもう一人のわたしがストップを掛けた。
ここで近藤さん夫婦のことを蓉子先生に丸投げしてしまったら、本当にこの夫婦は終わってしまう。
もっと違う何かの方法がある筈なの。
今こんな中途半端な形で投げ出して逃げてしまったら、わたしはこの先後悔する。
玲さんは怖い。
きっと、これからもっと非情な手段でわたしを潰しにくる。
でもここで逃げてしまったら、わたしはいつまでも甘ったれのまま。
蓉子先生の影でぬくぬく守られたまま。
自立したいの。
もっと、仕事が出来るようになりたいの。
これからもっと、色々な問題を抱えた人の力になれる弁護士になりたいの。
そう思った時、わたしの脳裏にフッと緒方君の姿が過った。
『僕が、助けてあげるから――』
ありがとう、緒方君。
その言葉があるから、頑張れる。
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