68人が本棚に入れています
本棚に追加
フラフラと立ち上がろうとするわたしの方へ、駅員さんに何か話したひよりちゃんが戻って来た。
「菊乃さん、ムリしないで。
立てますか?」
ひよりちゃんはわたしの身体を支えるように腕を貸してくれた。
「駅員さんの詰所がそこにあって、中にソファがあるから、そこで少し休んでいっていいですよって言ってくれました」
ニコッと笑ったひよりちゃんの可愛い笑顔が、6年前、最後に会った時と少しも変わらなくて、遼太と別れた時のことを思い出してしまって胸が痛くなった。
でも、もう過去のことよね。
「ありがとう」
わたしは今、心の底から、素直にそう言うことが出来た。
ひよりちゃんは、いいえ、と笑う。
「困った時は、お互い様です」
駅員さんや車掌さん、運転手さんの詰所になっている広い部屋の隅に、応接室のようになったスペースがあって、そこを少しの間貸してもらえた。
「ほんの少しだけでも休めば楽になると思います。
大丈夫ですよ、わたし、菊乃さんが休んでいる間、ここにいますから」
気の強さだけは自信がある普段のわたしだったら、こんな申し出に決して甘えたりしない。
でも、今は、身も心もすっかり弱気になってしまって。
人の優しさに抱かれて休みたかった。
「ごめんね、ひよりちゃん、ありがとう――」
長椅子に横になったわたしは、ひよりちゃんの言葉に甘えて、目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!