カルテ10 〝天使〟に会う

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 フラフラと立ち上がろうとするわたしの方へ、駅員さんに何か話したひよりちゃんが戻って来た。 「菊乃さん、ムリしないで。 立てますか?」  ひよりちゃんはわたしの身体を支えるように腕を貸してくれた。 「駅員さんの詰所がそこにあって、中にソファがあるから、そこで少し休んでいっていいですよって言ってくれました」  ニコッと笑ったひよりちゃんの可愛い笑顔が、6年前、最後に会った時と少しも変わらなくて、遼太と別れた時のことを思い出してしまって胸が痛くなった。 でも、もう過去のことよね。 「ありがとう」  わたしは今、心の底から、素直にそう言うことが出来た。 ひよりちゃんは、いいえ、と笑う。 「困った時は、お互い様です」  駅員さんや車掌さん、運転手さんの詰所になっている広い部屋の隅に、応接室のようになったスペースがあって、そこを少しの間貸してもらえた。 「ほんの少しだけでも休めば楽になると思います。 大丈夫ですよ、わたし、菊乃さんが休んでいる間、ここにいますから」  気の強さだけは自信がある普段のわたしだったら、こんな申し出に決して甘えたりしない。 でも、今は、身も心もすっかり弱気になってしまって。 人の優しさに抱かれて休みたかった。 「ごめんね、ひよりちゃん、ありがとう――」  長椅子に横になったわたしは、ひよりちゃんの言葉に甘えて、目を閉じた。  
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