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そうよ、わたしはあの時、あなたに付いていけないって思ったの。
あの時、あなたと一緒に生きる道を選択すれば、自分はきっと不幸になるって悟ったの。
ううん、自分だけじゃない。
互いに不幸になるって思ったの。
込み上げる感情を懸命に抑え込んで震える寸前のわたしに玲さんは。
「かわいさ余って憎さ百倍、とはよく言ったものだね」
え、と顔を上げて玲さんを見ると、玲さん、肩を竦めた。
「僕は一歩も引くつもりはないよ。
それはあの時と同じ。
でもあの時から菊乃がどれだけ成長したか、お手並み拝見させてもらうことにするよ」
玲さんの〝一歩も引かない〟。
余裕の態度と言葉。
それは、恵果さんに絶対的不利益をもたらす形でなければ離婚は成立させない、という意味だ。
「そんな……っ」
わたしが今日ここに来たのは、譲歩を交渉する為!
でも、言葉を継ぐことはできなかった。
玲さんが、指でわたしの唇を押さえたのだ。
言いたい言葉は強制的に遮られ、黙らされたわたしが玲さんを見上げると、切れ長の目が一段と冷酷さを増した光を放っていた。
震えあがりそうになったわたしに玲さんは冷たく言った。
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