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「僕はあの時菊乃に教えたはずだ。
勝った者が正義だって事を」
☆
わたしは、何の為にあそこに行ったの?
あんな、イヤな過去の記憶が沢山詰まったあの場所に。
玲さんに訴えようとした直後、若い男性秘書が、クライアントとの次の約束の時間が迫っています、と伝えに来、玲さんとの話しはそこで終了となってしまった。
結局、不毛な会話の為だけに、わたしは立川から四谷くんだり足を運んだの?
しかも、夢中だったから来た時は気にしなかったけれど、あそこはやっぱり、わたしが足を踏み入れるべき場所じゃなかった。
玲さんを迎えに来た秘書の男。
彼も、事務所開業当時からのスタッフ。
わたしの顔を見るなり、冷たい笑みを浮かべた。
『後ろ足で砂を掛けるように出て行ったというのに、よくここに来られましたね』
すれ違いざま、玲さんには聞こえないよう小声でそんな言葉を吐き捨てるように呟いていった。
怯んだら、負けだ。
わたしは玲さんに『お手柔らかに』と気丈に微笑み、毅然とした態度で、少し高飛車なくらいに胸を張って事務所を後にした。
気付いたら、中央線で揺られていた。
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