カルテ10 〝天使〟に会う

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 このみさんに感謝して、わたしは冷えた栄養ドリンクの小瓶を受け取った。 「そうだ、菊乃」  奥の立派なデスクに座っていた蓉子先生が、パソコンを操作しながらわたしに声を掛けた。 「例の案件、あの後クライアントさんに会ったんでしょう? どう?」  どう? というのは、大丈夫? とか、ホントにいける? とか、そういった意味も込められているのだろう。 ドリンクの小瓶を開けていたわたしは蓉子先生を見た。  大丈夫です、と答えようとした時、事務所の電話が鳴った。 「はい、芙蓉法律事務所……ああ、近藤さんね。 翠川先生なら今ここにいますよ、代わりますね」  電話の応対をするこのみさんの言葉を聞いて、わたしの貧血で蒼白になっているであろう自分の顔が、ますます白くなったのではないか、と思った。  近藤さん? こんな時間に、なんだろう。  嫌な予感に押しつぶされそうになりながら、このみさんから受話器を受け取ったわたしは、昨日に引き続き、恵果さんの泣き声を聞くこととなった。 「もしもし、近藤さん?」  わたしはよく、取っ付き難い人、とかツンツンしている、と人から言われる。そんなつもりはないのだけど、口調がキツイらしいのだ。 だから、こんな時にものすごく神経を使う。
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