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そんな事情をよく知る蓉子先生とこのみさんが、瞬きもせずに緊張の面持ちでこちらを凝視している。
二人の顔を見ていたら余計に硬くなりそうだったので、わたしはさりげなく背を向けた。
ともかく、落ち着いてもらって事情を聞かないと。
昨日の今日で、こんな状態で電話してくるということは、何かあったのだろうから。
「話せることからでいいので、話せますか?」
落ち着け、菊乃。
わたしは恵果さんに言いながら、自身に言い聞かせていた。
恵果さんは、すみません、としゃくり上げながら話し始めた。
「あの、今朝、出勤した父から電話があって。
父の、職場に、その、あの人の代理人さんから、退職金の一部仮押さえの通知が――」
途切れ途切れの、かなり簡素化された説明ではあったけれど、だいたいは把握出来た。
玲さん! 受話器を握る手が怒りで震えそうだった。
わたしや恵果さんのところだけではなく、恵果さんの実父の会社にまで!
離婚するのなら、慰謝料を巻き上げよう。
しかし恵果さんの財産では到底足らない。
そこで目を付けたのが退職間近の恵果さんの実父。
その退職金に狙いを定めたのだ。まるで禿鷹。
ゾクリと背筋が冷たくなる。追い詰めて追い詰めて、弱らせたところで止めを刺して首を取る。
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