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「人のことばかり考えて自分のことは二の次にしちまうとこが似てるんだよ」
あ、とわたしは固まる。
「俺の趣味はブレないんだぞ」
わたしの耳に、遼太の優しい笑い声が届いた。
遼太がひよりちゃんを選んだ時に受けたショックは〝失恋という事実からもたらされたもの〟はもちろんある。
けれどそれとは何か別の、失望感みたいなものがあった。
きっと、若さと幼さの中にある可愛らしさ、といった自分にはないものを求めた遼太に対する非難めいたものだったのかもしれない。
でも。
『似てるだろ』
胸の奥底を震わせ、自然に染み込む言葉だった。
ずっと引っ掛かって前に進めなかったのは、遼太がわたしの何を見てくれていたのか分からなくなってしまっていたから。
自分とは正反対の子を選んだことに対して生まれたショックはわたしの心の一部分――恋情恋慕を健全に育む部分――の時を止めてしまった。
結果、全てがキラキラに見えていた頃、わたしの中にしっかりと足跡を残した遼太が消えなくなってしまったのね。
残像となった遼太はわたしの中で美化されていた。
でも、もう遼太はあの頃の遼太じゃない。
男であっても、男じゃない。
「パパー!」
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