カルテ11 過去にサヨナラ

13/19
前へ
/37ページ
次へ
「おっと」  もう一人、子供が遼太の元に走り寄ってきたようだ。 そう、遼太は、家庭を守る、夫で父親。 「ちょっと待て、俺はまだ電話してる。 歯を磨いて来い!」  子供達の、はーい、と言う声と駆けていく足音が聞こえた。 「ひよりちゃんいなくて、遼太一人で三人みるの?」 「昼間は俺は仕事だからひよの実家。 夜は連れて帰って来て一緒に風呂入って寝る」  遼太は本当に、パパになっている。 わたしが好きだった、愛した男は、もういない。 わたしは、幻影を追い求めていたんだわ。  それに。  ひよ。  遼ちゃん。  幼なじみだった二人がそう呼び合うところを初めて見た時の、 ああこの二人の間には他人が入り込む隙なんて1ミリもないんだ、 と思い知らされた時の、切なくて苦しくて泣きたくなった感覚が胸に蘇ってきた。  感情が風化して、思い出となる。 当時の胸の痛みが過去のもの、って言えるようになった。  なんだか、すっきりした。 遼太に電話をして良かった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加