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「おっと」
もう一人、子供が遼太の元に走り寄ってきたようだ。
そう、遼太は、家庭を守る、夫で父親。
「ちょっと待て、俺はまだ電話してる。
歯を磨いて来い!」
子供達の、はーい、と言う声と駆けていく足音が聞こえた。
「ひよりちゃんいなくて、遼太一人で三人みるの?」
「昼間は俺は仕事だからひよの実家。
夜は連れて帰って来て一緒に風呂入って寝る」
遼太は本当に、パパになっている。
わたしが好きだった、愛した男は、もういない。
わたしは、幻影を追い求めていたんだわ。
それに。
ひよ。
遼ちゃん。
幼なじみだった二人がそう呼び合うところを初めて見た時の、
ああこの二人の間には他人が入り込む隙なんて1ミリもないんだ、
と思い知らされた時の、切なくて苦しくて泣きたくなった感覚が胸に蘇ってきた。
感情が風化して、思い出となる。
当時の胸の痛みが過去のもの、って言えるようになった。
なんだか、すっきりした。
遼太に電話をして良かった。
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