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あの日、法廷に響き渡っていた玲さんの硬く冷たい声は、わたしを斬る、切れ味の鋭い刃となった。
負けた。
そう思った瞬間だった。
正義であったはずのものが、覆されてしまった瞬間だった。
あの時わたしは自分の力を思い知ったの。
クライアントさんを守ることすらできない、自分の力の無さを。
法廷で判決が言い渡された日の、彼女の顔が今でも目に焼き付いている。
今にも泣きだしそうなのに、泣かない、どこか諦めたような、言い表せない感情がもどかしい、そんな表情。
でも、彼女がわたしに残した言葉が、その表情以上の鮮烈な記憶になっている。
『翠川先生が私の為に、ご自分の今の居場所全てを失ってでも、って闘ってくれたことが、嬉しかった』
そんな言葉を言ってもらっても、わたしは結局勝てなかったの。
あなたを守れなかったの。
ごめんなさい、ごめんなさい。
わたしはずっと、胸の中で繰り返していた。
夢と現を行き来するような、うつらうつらしているわたしの耳に、柔らかで可愛い、そんな声が聞こえてきた。
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