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やっぱり、わたしはこの声が聞きたかったんだ。
耳からすっとわたしの中に滑り込み、深く浸透した声は、心を優しく抱き締める。
「今夜は、どうしたの」
柔らかな声が、優しく聞いた。
声がもたらす快感に、ちょっと酔いしれてみたくなる。
もう少し、その声を聞かせて。
「どうしてだと、思う?」
緒方君の口から、言葉を引き出してみたくなった。
仕事じゃないの。
きっかけが、欲しいの。
少し前に電話の向こうから聞こえていた声とは違う。
遼太の声は、真っ直ぐで強く、グッと迫ってくるような声。
緒方君の声は――、
「どうしてかな……」
フッと笑っている気配。
緒方君は、そうだな……、なんてちょっと考えている風。
ちょっぴり焦れて、わたしは言う。
「考えて。ちゃんと」
わたしの事、考えて。
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