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「わたしは、大丈夫。
それより、くれぐれも足元とか気を付けて帰ってね」
迷いながら、何度も振り向くひよりちゃんに、わたしはバイバイと手を振った。
「ありがとう、ひよりちゃん。
遼太に心配かけちゃ駄目よ」
わたしの言葉に、パッと顔を赤らめたひよりちゃんがすごく可愛かった。
ああ、この子が、遼太が選んだ子。
会釈をして、衝立の向こうに消えたひよりちゃん。
出て行く前に駅員さんに挨拶をする声が聞こえていた。
遼太、あなたはとってもいい子を選んだのね。
ずっと胸につかえていたものがスーッと落ちていくような気がした。
☆
事務所に戻った後、くよくよなんてしていられない、と精力的に資料文献を探した。
切り崩せるところを見つけてなんとかして突破口をこじ開けなければ前に進めない、そう思った。
集めてきた資料の分析解析をしているうちにすっかり日も暮れ、蓉子先生とこのみさんは帰って行った。
一人残るわたしに「戸締りだけお願いね」とこのみさんは言っていたけれど、片付けと掃除もちゃんとしておかないとね。
ひと段落させて伸びをしたわたしは、フロアは掃き掃除をして、モップを掛け、デスクや応接セットのテーブルには雑巾がけをして、使った食器を片づけた。
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