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デスクに戻ってパソコンの電源を落として、帰る支度を始めた時、ふと今日会ったひよりちゃんのことを思い出した。
あの様子だと、わたしに会ったせいで帰るのが遅くなったこととか、遼太に話してないわね。
自分の身体を顧みずにひよりちゃんはこんなことをしてくれた、って伝えて、お礼を言いたい。
でも、いいだろうか。
わたしは、遼太に電話をして、いいの?
ひよりちゃんに対する感謝の気持ちを、真っ直ぐに、素直に伝えたいだけなのに、どこか、斜の角度から入るわたしの感情が邪魔をする。
わたしはすうっと深呼吸した。
もう、大丈夫。
酸素を取り込んだ冷静な頭が判断していた。
遼太の声を聞いても、やけぼっくいにはならない、と。
わたしの心に、別の人がいる。
その人が、わたしの背中を押してくれている気がした。
わたしは目を閉じ、もう一度深呼吸して携帯を手にした。
ずっと消すことができず、アドレスの中に納まっていた遼太の番号をタップする。
5年ぶり。恐らく、番号は代えてない。
目を閉じるわたしの耳に、携帯を通して呼び出し音が鳴り、数回で相手が取った。
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