138人が本棚に入れています
本棚に追加
「…お…お前、誰だよ」
「俺か?…俺の名前はフェーム……お前と同じフェンリルだ」
明らかな体格の違いに驚きを隠せないザード
また口をパックリと開ける
だが、フェンリルの方では『亜種』と言われる黒いフェンリルが気になるようで…
「主に聞いたが…お前の一族の中に黒いフェンリルが居るとか」
前の世界に居たフェンリルを聞かれて、ザードは口の端を上げた
「なんだぁ?…出来損ないを聞いてどうするんだ?」
「『出来損ない』なぁ……そいつ、先祖返りじゃないのか?」
苦笑を浮かべて言うワードに、彼は頭を傾げる
「はあ?…何、言うんだ…先祖返りってなんだよ…俺達の一族はみんな白い…白が優秀なんだよ」
「俺は、昔黒かったが?…今の姿が白でも、元を辿れば違う色…黒だ……その上で『出来損ない』と言えるのか?」
「なんだと!?」
「まあ、いい……お前は世界征服をすると戯言を言ってるらしいが…その実力はあるのか?」
言いながら、フェンリルはノソリと立ち上がって人化魔法を使う
光を纏って現した姿は、黒一色の軍服姿に、マントの色も黒
「……な…えっ?……」
狼姿の時と違う人化の姿に驚きを浮かべた
「……どうした…構えろ……世界征服する実力を見てやるんだ…相応の力が無ければ、一つの国さえ征服なんか出来ないぞ」
「…ちょっ!…」
「…ちょっと待った、フェンリル…その役、俺に譲れ」
ザードの声とスェタナの声が重なった
「そいつは、俺が引き取るんだ……魔王の俺に相応しいかどうか見たいんだがよ」
王座に座る男にザードが顔を向ければ、男は継承の剣を抜いた
『魔王』と言うキーワードに、彼の体が震える
この世界に来る前、向こうの『魔王』に散々打ち据えられた
この魔王も同じかと思うと、気持ちが戦いてしまう
「あぁ…それも良いかもな………お前…言っておくが、こいつは俺より弱い」
『弱い』と聞いて、気が大きくなる
こいつを倒せば、世界征服の第一歩になる
ザードの顔に表れた面に、4人の男女は呆れた
「…馬鹿だねぇ」
「…愚か」
「…どうしようもねぇ、ガキだな」
「…主の言った通りだ」
上から女性・夫君・スェタナ・フェンリル
それぞれの感想に、彼の顔が真っ赤になった
「うるさい!来ないなら、こっちから行くぞ!」
白い光を纏い、ザードの体が体高2㍍、体長3㍍の狼姿になった時、スェタナが吹いた
「ちっせぇ」
ここまで馬鹿にされたのは生まれて初めてで、魔王に突っ込むものの、簡単に躱されてしまう
4度5度と攻撃をかけるも悉く躱され、挙げ句の果て頬に打撃を食らい、悲鳴を上げ床に体を弾ませながら壁にぶつかった
最初のコメントを投稿しよう!