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「…どうした……まだ、終わってねぇぞ?…」
剣を担ぎ、トントンと肩を叩くスェタナに、ザードは悔しさでいっぱいだ
「………卑怯だぞ……弱いって言ってたのに……強いなんて」
「あ"あ"?…何言ってんだ…確かに俺はあいつらより弱ぇ…だがよ…自分の弱さを、こっちの所為にすんじゃねぇよ……おめぇ、6億年も寝てたんだ……あらゆる生物の生き死にを見た筈だ……その中に、世界征服をした奴の夢も見てただろ?…そいつはどうなった?」
「…夢なんて忘れた………それよりも、俺は6億年も眠ってたのか?……それなら、今の俺は……」
それほど、長い時間を眠っていたとは思わなかった
普通ならば、とうに死んでいる
なのに生きている
白い体毛が青白くなり、体が震える
「あー…なんか、あそこのば…姉ちゃんが、おめぇを冷凍睡眠にして空間に入れてたみたいだが?」
「冷凍…睡眠?……なんだ?それは」
「…んな事ぁ、どうでもいい……おめぇは、俺のもんだ……魔界初の魔王の使い魔になれよ…鍛えてやる……魔王の使い魔が弱っちいのは洒落になんねぇし、他の魔族にも侮られる…どうやら、おめぇは馬鹿高いプライドを持ってるみてぇだし……へし折ってやんよ『それ』」
ガキ大将のような笑みを浮かべ、己の掌に剣を滑らせ、ザードの顔の前に突き出した
「舐めろ…『魂の契約』だ」
【魂の契約】
どれほどの寿命を持っていても契約を交わした場合、片方が死ねばもう片方も死んでしまう、滅多に交わす事が無い契約
然し、…
「あぁ…いいぞ」
意味を知っているのか知らないのか、意図も簡単にスェタナの血を舐めた
「ありがとう、魔王さん…これでフェームの心残りが無くなったよ」
緋(あか)いマントを着た女性が、彼の前に出て礼を言った
「フェンリルの心残り?」
「そうだよ……フェームの魂の霊格が上がって神獣になった時、封印してた記憶が戻ったんだ…そしたら、貴方の事が気になって仕方がないって言い出してね…」
「主!それは言わない約束…!」
笑みを浮かべて言う女性に、フェンリルが慌てて止める傍らで、夫君の肩が揺れる
「だって…話を聞いたら、なんか…弟が心配だって感じだし?」
「『弟』?」
「そ…弟…年齢的にいったら、うちの旦那はおじいちゃん…」
『くらいの年齢』と言う前に口を手で塞がれた
そして、手の持ち主の額には青筋が浮かんでいる
「緋影……それを言ったらならば、そなたは姉と呼ばれる年ではないか?」
「…………うん、まあ……そう言われればそうなんだけど………開きが6億ぐらいだし?」
後頭部を搔きながら言えば、聞き捨てなら無い年の開き
スェタナが指を指しながら2人に聞いた
「……あんたら…いったい幾つだよ」
「我は忘れた」
と夫君が言えば、間髪いれず女性がしっかり言う
「シュヴィはだいたい60億、私は8億、フェームは2億かな…シュヴィとフェームは…だけどね」
乾いた笑いで言う女性に対し、スェタナとザードの口がパカリと開く
「…………あんたは?」
然し、スェタナは気付いた
『女性だけ』その括りに入っていない事に
「…私?……私は『このまま』だよ」
そう言って笑む顔は、……慈しみを持っていた
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