カルテ19 双極性障害

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 蓮さんのお話しに区切りがついて、少しの沈黙を経て、緒方君がゆっくりと話しを始めた。 「そうですね、自分で感情のコントロールできないくらいに粗暴になる、というのは鬱の時とは全く違う別の人格のように思えますね。 多重人格か、と心配なさる気持ちは分かります。 けれど、近藤さんの場合は、ちょっと違います」  そうなんですか? という蓮さんの声が聞こえ、恵果さんが顔を上げる。 緒方君は、ええ、と応えていた。 「躁うつ病という病は聞いたことはありますね?」  蓮さんの頷く気配があった。 それを確認したように、緒方君の言葉が続く。 「現在は、双極性障害、と言うのですが、これは、対極の場所にあす躁と鬱の間を行き来して揺れ動くのでそう呼ばれています。 僕の診断では、近藤さんはこれに当たるんです。 恐らく、これまで近藤さんを診ていた城崎先生も同じ診断をすると思います」 「双極性障害、ですか」  自らに言い聞かせるように蓮さんが呟いていた。 緒方君が「はい」と応える。 「躁と鬱の症状が現れるにはバイオリズムのような周期があって、それは患者さんによって様々なので、このくらい、という期間は一概には示せませんが、近藤さんは恐らく……四年から五年、といったところでしょうか。 その間に、少しずつ移り変わっていっていくように思います」  穏やかに優しく、人の心にすっと浸透する緒方君の声が、聞こえる。
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