102人が本棚に入れています
本棚に追加
立ち上がろうとした恵果さんの腕をわたしが寸でのところで掴んで止めた。
恵果さんがわたしを睨んでる。
目が「騙したんですね」と言っている。
わたしは頭を下げて囁くように小さく「ごめんなさい」と言った。
「でも、話しだけは聞いて欲しかったの。
わたしは、まだ可能性があるって、思ったの」
「可能性?」
恵果さんの困惑の表情がわたしの胸に重石を掛ける。
不安になる。
わたしの判断が間違っていたら? って。
わたしは、まだ恵果さんの心が完全に蓮さんを拒絶している訳じゃないって信じている。
だから緒方君に『彼らにもう一度向き合わせるチャンスを』と言ったの。
それが違っていたら?
わたしは恵果さんの目をジッと見つめた。
緒方君ならきっと、目の動き、表情、言動から相手の気持ちを見抜く事が出来る。
わたしにはそんな事は出来ないけれど、彼女のこれからの人生にとって幸せといえる最良な選択をして欲しいから、賭けに出た。
わたしも、緒方君も、一か八かの賭けに出たんだ。
「ともかく、ご主人の事情を、知って、それからもう一度考えてみませんか?」
最初のコメントを投稿しよう!