カルテ19 双極性障害

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 恵果さんの腕を掴んだまま、わたしは低く静かに言った。 恵果さんはわたしの迫力に押されたらしく、「は……はい……」と黙り込んでしまった。  カーテンのこちら側の密やかなる攻防は、あちら側には伝わっていないようだった。  変わらず、静かに話しが続いていた。 「では、その頃の近藤さんは、鬱の時の落ち込みとは反対に、自身が今はなんでも出来るような気持ちの盛り上がりがあり、それが次第に感情のコントロールを難しくしていった、ということになりますね」 「はい……」  聞こえてくる会話に耳を澄ましているうちに、恵果さんの表情が硬くなる。 そして、小さく、呟くように言った。 「そうなんです……別人みたいになったんです……」  わたしは黙って恵果さんを見つめていた。 カーテンの向こうから、蓮さんの言葉が聞こえた。 「両親が、多重人格を疑って……でも、僕はそんな筈はないって。でも心配だから、しばらく行っていなかった心療内科に行って来いって言われて――」  時折、緒方君が絶妙のタイミングで頷き、促す様子が伝わってくる。  多重人格、という言葉を耳にした時、恵果さんがビクッと震えた。 わたしは握ったままだった手をそっと撫でた。
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