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「鬱の時は、周りの人間も心配して必死にフォローしてくれるのですが、反対に躁の状態の時は、攻撃的になる方が多く、特に一番身近な人間を深く傷つけてしまう事が多いようです。
結果、周囲の人間もフォローをするのが難しいのです」
そこで一旦言葉を切った緒方君は、蓮さんの様子を窺っているようだった。
「お心当たりが、おありのようですね?」
胸がキュッと鳴くような、優しい声だった。
蓮さんの、嗚咽が聞こえる。
「もっと、早く気付けばよかった……」
悲嘆にくれた声音が、ここまでしっかりと届いた。
蓮さんの深い後悔と苦しみが空気を震わせて、カーテンを超えて恵果さんに届いた。
わたしの手の中にある恵果さんの手が小さく震えていた。
うつ向いたままの恵果さんの感情は分からない。
泣いているの?
怒っているの?
この、賭けといってもいいわたしと緒方君の作戦は、どちらに転ぶか。
早鐘を打つような鼓動がずっと続いてる。
祈るような気持ちで、緒方君に、全てを託す。
わたしは、こうして恵果さんの手を握っていることしか出来ない。
緒方君――。
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