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目を閉じて、緒方君の名前を呼んだ時、静かな澄んだ声が聞こえて来た。
「大丈夫ですよ、近藤さんはちゃんと、病気と付き合っていく覚悟が出来ているじゃないですか。
こうしてここに来てくれる方は、少しでも心を調節しながら生きていく意味を分かっていますから」
そこで一息置いた緒方君は、言った。
「こうしてもう一つの症状に気付くのは、遅くはなかった筈ですよ、きっと」
深い響きを持つ、色んな意味が詰まった言葉に聞こえた。
「恵果さん!?」
わたしが止める間もなく、立ち上がった恵果さんがカーテンを開けていた。
「恵果!?」
診察室には、向かい合う形で座る緒方君と、恵果さんのご主人、蓮さんの姿があった。
蓮さんは、信じられない、という驚いた表情でこちらを、恵果さんを見つめていた。
わたしは、抑えておけなくてごめんなさい、と内心で謝りながら緒方君へ視線を送ったけれど、緒方君は穏やかな笑みを浮かべたまま、少しも焦る様子は見せていなかった。
すべて、計算通りだった、とでも言うように。
「恵果……どうしてここに……」
予想だにしていなかった展開に、蓮さんが恵果さんと緒方君を見比べて言葉を失った。
当然の反応よね。
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