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捕まえられてしまいそうだった。
わたしの心は、ここにはない筈なのに。
わたしはどうしてこんなところに、玲さんといるの。
緒方君……、どうして連絡くれないの。
どうして、昨夜のこと何も言ってきてくれないの。
脳裏をフッと過った愛しい人の姿に胸の中のわたしが手を伸ばしていた。
でも、直ぐにその人は消えてしまう。
そうだ、久しぶりに会えて嬉しかったくせに、逃げたのはわたしだった。
切なさに涙が出そうになった時だった。
「菊乃」
呼ばれて顔を上げると。
「ほら」
玲さんが、見てごらん、と目で合図して前方に視線を向けた。
指された方を見ると、白無垢打掛姿の花嫁さんと袴姿の花婿さんが美しい庭園をバックに並んで写真撮影をしていた。
花嫁さんの傍には、日傘をかざす介添え人さんがいて、細やかに世話をしている。
まるで、映画のワンシーンのよう。
容赦のない真夏の日差しの下でも、花嫁さんと花婿さんは幸せそうに微笑み合い、会話を交わす。
これが、夫婦の1ページ目なのね。
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