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建物から庭に出る場所が少し勾配のある石段になっていて、玲さんはさり気なくわたしの手を取ってくれだ。
ゆっくりと庭を眺めながら下りていく。
「素敵な庭園ね。
ここの事は聞いてはいたけど、初めて来たわ」
「そうだな、いわゆる庭園としての観光で来る場所ではないからな」
「そうよ、だってここ、結婚式場だもの」
「君には縁のない場所か」
「一言余計」
玲さん、ハハハと笑った。
どちらにしても、とわたしは思う。
結婚目前までいっていたわたしと玲さん。
結婚式の計画を立ててはいたけれど、海外挙式の予定だったから、都内、国内の式場を見たことはなかったものね。
少し平らな場所に出ても、玲さんはわたしの手を離さなかった。
無理に離そうとは出来ず、振り払うわけにもいかず、妙な緊張でどきどきする胸を抱えて少し前を行く玲さんの背中を見ていた。
今日の玲さんは、いつも見るスーツ姿ではなくて、半そでのカラーシャツに少しばかりラフなズボンを合わせて、夏のオフスタイル。
背が高くて、足が長いからどんな格好をしても似合うのだけど、玲さんの着ているお召し物はすべて、いつだって、その洗練されたデザイン、ラインの美しさからいいものであることが分かる。
わたし、こんな人と結婚するかもしれなかったんだ。
今、どこかホッとしている自分がいる。
わたしは、どのみち玲さんとは一緒にはなれなかったと思う。
生きてきた世界も、これから生きる世界も違う人、なのかもしれない。
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