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胸にはっきりとそんな想いが浮かんで、繋がれた手を離そうとして顔を上げると。
「菊乃、ほら」
夏の日差しの下、涼を感じさせる風が吹いて、頬を撫でた。
池が目の前に広がっていた。
「あ、鯉」
立派な錦鯉が悠々と泳ぐ池。
そして、そこに流れ込む水を運ぶ川のせせらぎが辺り一帯に涼を与えてくれていた。
「都内ってことを忘れちゃいそうね。
ここは都会のオアシスなのね」
顔を上げたわたしに、玲さんは優しく笑った。
「ここは、蛍が見られることでも有名なんだ。
もう少し前だったら、菊乃に蛍を見せてやれたな」
「そうなの、残念……あら、でも蛍は夜じゃないと見られないじゃない」
「その時はここに泊まればいい。
一緒に」
「玲さんたら。
冗談ばかり」
ハハハと笑う玲さんは。
「僕は冗談で言ったつもりはないよ」
わたしは苦笑いしてしまう。
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