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夏の昼下がり、ビルも道路も反射した光で白く見えていた。
わたしはバッグから出したサングラスをかけて日傘を差した。
週末の喧騒に溢れる街は家族連れ、カップル、皆それぞれの楽しい時間を過ごして明るい声を上げて笑っていた。
人の流れに逆行するように歩いていたわたしは夏の日差しから逃れ、地下鉄有楽町線の護国寺駅の階段を下りて行った。
玲さんとはホテルのロビーでお別れをした。
家まで送る、と言ってくれた玲さんの申し出は、丁重に断った。
だって、玲さんの大事な休日を拘束する権利は、わたしにはないから。
玲さんにこれ以上無駄な時を過ごさせてはいけないから。
「もうお仕事で会う事なんてありませんように」
願わくば、もう二度と玲さんと同じ土俵に立つ事のなどありませんよう。
ちょっぴりいたずらっぽく言ってみせたわたしの頭を玲さんは頭をポンと叩いた。
「僕は菊乃との勝負ならいつだって受けて立つよ」
「わたしは願い下げだわ」
ハハハと笑った玲さんは言う。
「菊乃、あの男が嫌になったらすぐにでも僕のところに戻ってくるんだ」
また、そんなことを言う。
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