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わたしは玲さんを見上げて軽く睨んだ。
「戻りません」
玲さんに相応しい女性はわたしじゃない。
「玲さんはもう、わたしを突き離さないと」
一瞬、驚いたような表情をした玲さんだったけれど肩を竦めてフッと笑った。
「そうだな」
玲さん、昔みたいに切れ味の鋭い冷たく光るナイフのような姿だけをわたしに見せて。
少なくとも、わたしにはもうそんな〝隙〟を見せないで。
これ以上一緒にいたら、互いの想いが煮詰まっていく。
そうなってしまうと、本当に〝愛〟ではなくて〝情〟で離れられなくなる。
それだけは避けないと、わたし達は一歩も前に進めない。
わたしの頭に置かれていた手が、クシャとひと撫でしてそっと離れた。
玲さんの目が柔らかな色を見せた。
そして、一歩、離れ、
「じゃあな、菊乃」
とだけ言った。
別れ際は、あっさりとしたものだった。
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