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肩を竦めてフッと笑った緒方君の寂しげな顔がわたしの心に深く突き刺さった。
緒方君の心が泣いてる。
わたしは何も言わずに緒方君を抱きしめた。
背中に回した腕に、ギュッと力を込めた。
優しく頭を撫でてくれる緒方君の手の感触を感じながらわたしは目を閉じた。
緒方君は、彼女が亡くなってからそうして悲しみを閉じ込めてきたの?
根拠を失ってしまった彼女の、緒方君への〝愛〟に対して――、ちょっと待って。彼女の、〝愛〟?
脳裏に、一枚の絵がはっきりと蘇った。
わたしはパッと顔を上げた。
「翠川さん?」
驚いた顔をしてわたしを見る緒方君の顔を両手でそっと挟んだ。
わたしは、緒方君の目を真っ直ぐに見詰めて言った。
「緒方君、彼女は間違いなく緒方君を愛していたわ」
「え?」
「彼女の愛は、ちゃんと残されていたわ」
彼女の描いた作品は、そのほとんどが静物だった。
花、鳥、動物、風景。人物画は、たったの一枚だけだった。
観る者に、被写体への深い愛情を訴えかけるあの、緒方君を描いた一枚だけだった。
あの絵には、彼女の緒方君に対する迸る感情、想いが込められていた。
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