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彼女が、どんなに緒方君を愛していたか。
本当はこんな事、認めたくない。
わたしの方が、緒方君を愛していける。絶対。
でも、緒方君の中にある彼女にまつわる呪縛を解いてあげないと、この先緒方君はずっとこの苦しみを抱いたまま生きていく事になる。
わたしは両手で緒方君の顔を挟んだまま真っすぐ見据える。
綺麗に澄んだ黒い瞳に、わたしが映っている。
僅かに、潤んで見えた。
わたしは、微笑みかけて一語一語しっかりと言った。
「彼女はあの、緒方君の肖像画にきっと言葉にも出来ないくらいの愛情を込めたんだわ。もう一度言うわね。彼女は間違いなく、緒方君を――」
言い終わらないうちに、抱き締められて唇を塞がれて、少しばかり激しい口づけをされた。
何度も何度も、舌を絡めて、吸って、吸われて。
愛してる、って言葉は、たったの5文字だけど。
この感情はそんな言葉じゃ、到底表現しきれない。
でもそこに、計り知れない可能性がある。
緒方君の過去を、一緒に背負わせて。
「緒方君」
「ん……?」
緒方君の腕の中で触れ合う肌と肌を感じながらわたしは言う。
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