111人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
東京タワーは、先ごろ完成したスカイツリーにお客さんが流れた、とはいえやはり同じような事を考える人が多いのか――、
「結構、混んでるのね」
新しい目玉観光地を避けた客で賑わっていた。
「そうだね、今世間は夏休みでもあるから」
肩を竦めた緒方君がわたしに優しく微笑んだ。
久しぶりに独占した緒方君の笑顔に胸が熱くなる。
溢れる幸福感が指先足先まで行き渡る。
緒方君にもっと密に触れたい。
そんな事を考えてしまった自分が恥ずかしくなって俯いかけた時、展望デッキに到着した旨を伝えるアナウンスが聞こえ、エレベーターの扉が開いた。
箱から流れ出る大勢の人の波に呑まれそうになったわたしに手が差し伸べられた。
「翠川さん、ほら」
指の長くてしなやかで、でも男らしく大きな手。
わたしの胸が、キュッと締まって、跳ねる。
生まれて初めてのデートで手を繋ごうとする時のように。
ちょっぴりひんやりとする緒方君の手に、わたしは自分の手をゆだねた。
手を引かれて箱の中から外に出、ピタリと寄り添ったわたしを見て緒方君はクスクスと笑って言った。
最初のコメントを投稿しよう!