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人は、感極まると言葉が出て来なくなるものみたい。
止めどなく溢れる涙だけがわたしの感情を語ってくれていた。
わたしの涙をそっと拭って抱きしめてくれた緒方君が言う。
「本当は、大事な友人の立ち合いのもと、君にプロポーズする予定だった。
なのに君のあのサプライズ。
どうしようかと思ったよ。
でも、今日絶対にプロポーズすると決めていたから」
そうだったの。
わたしは緒方君の腕の中で目を閉じた。
こういうのって、結果オーライ、というのかもしれない。
だって、〝お家でプロポーズ〟じゃなければこんな風に抱きしめてもらえなかったもの。
わたしは緒方君の背中に腕を回してキュッとシャツを握った。
もっと抱いて。もっと強く抱きしめて。
愛しいの。堪らなく愛しいの。
ずっと、ずっとあなたの傍にいたいの。
あなたと生きていきたいの。
「菊乃」
耳に吐息が掛かって、わたしは震えて肩を竦めた。
「僕のプロポーズは、受けてもらえますか」
お断り、すると思う?
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