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「変な事ってなんだよ」
狼煙間はさらに訝しそうに矢木を見つめる。
「や、だから……その……」
「……」
(ていうか、こんな弁解しなきゃいけねぇ状況そのものが怪しいってんだよな!)
矢木は強張った笑みで、自分だったらまず信じないであろう弁解への返答を待った。
狼煙間は目を細め、じっと矢木を見つめている。いや、睨んでいる。
矢木は気まずくなり、視線を逸らして首をさすった。
「あ~……もう帰れば?」
「なんでだよ」
狼煙間は、まだ厳しい視線を矢木にぶつけつつ、低く尋ねた。
「ん……お前が帰りたいかと……」
「……なら帰る」
狼煙間は不愉快そうに鼻を鳴らして立ちあがり、矢木に背を向ける。何のためらいもなく部屋を出て行った狼煙間を、矢木は慌てて追った。
「な、なぁ、狼煙間……」
「なんだよ」
気にするなよ、と言いかけ、矢木は口を閉じる。そう言ってしまうと、気にしているのがむしろ自分だと言っているようなものだとも思ったし、かえって変に意識させてしまいそうで嫌だった。
「何でもねぇ……」
「ん」
狼煙間は、少し不機嫌そうに眉をしかめたが、何も言わずに出て行った。
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