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それから数日。ぎくしゃくとした思いを抱えながら、矢木は何でもないように振る舞い、生活していた。しかし、狼煙間は特別何を言ってくる事もなかった。放課後にはゲーセンに行ったり、他校と喧嘩をしてみたりと、普通の生活だ。
そして、ある放課後、帰り道の途中で狼煙間がふと思い出したように自販機の前で立ち止まった。
「この間の……あれだ、日曜の礼だ。ジュースおごってやる」
「おー」
あの矢木の部屋での事件の日だ。少なくともあの時の食事代は、ジュース一本よりは高額だったはずだが。
(まぁ、珍しく覚えてただけでも良しとするか)
矢木は苦笑しながら頷いた。狼煙間は財布を取り出し、千円札をつかみ出す。
「小銭ないのか? お、あんじゃん。こう言う時に小銭使っとかねーと、財布が重いだろ? 1000円なんて入れたら、小銭が増える一方だぞ」
「めんどくせぇ」
矢木は財布を突きだした狼煙間からそれを受け取り、自販機の前に立つ。これでは、まるで子供の世話をするお母さんだ。
「はいはい、俺がやりますよ、と。お前どれ買うんだ?」
「ん」
狼煙間は自分が欲しい缶のジュースを買い、さっそく開けた。
矢木は漠然と狼煙間が口を付けるのを眺めていて、あの唇のほくろに目を止める。
(あ……)
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