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次の日から、矢木はあからさまに狼煙間と距離を取るようになった。狼煙間が同じ部屋に居るだけで、さりげなく部屋から出て行ったり、放課後声をかけられる前にさっさと帰ってしまったり。とにかく、顔を合わせないようにと努めている。矢木自身、自分の行動がいかに不自然であるかは身に染みて分かっていたけれども、狼煙間と一緒にいることの方が怖くて、どうしようもなかった。
「あの野郎……」
ある放課後、狼煙間はいつになくイライラして、いらだち紛れにゴミ箱を蹴りつけ、犬井は耳を垂れた犬のようにしゅんとして縮こまった。
「矢木さん怒らせるような事、何かしたんスか? 狼煙間さん」
「してねぇよ!」
「でも、なんか思い当たる事あるっしょ? だって、矢木さん理由もなしに距離とったりしないっスよ」
(ていうか、狼煙間さんの事だから、絶対なんかしてると思うな~)
犬井は、常識人の矢木の方に理があると確信しているが、狼煙間には本当に何の思い当たる理由もなかった。矢木は、狼煙間がいくら電話をかけても、最近はほとんど出ようとしないのだ。
「……もしかして、矢木さんZOOを抜ける気じゃ……」
「!」
狼煙間はゆっくりと瞠目し、やがて怒りを露わに唸りはじめる。
「……締め上げてききだすぞ」
「う……マジっすか」
狼煙間は、犬井を引き連れ矢木を捜しに街に出た。
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