第4章 狼の気持ち

12/21
前へ
/70ページ
次へ
「の……狼煙間……」 矢木は、なんと言っていか分からず、言い淀んだ。矢木は不安にかられながらも、じっと小さくなって狼煙間の様子を窺う。 「最初から黙って言う事聞いてろ」 狼煙間は、スポンジで矢木の背中を擦り始める。その手つきは、矢木の想像以上に優しい。 「く、くすぐったいって……」 矢木は遠慮がちに告げるが、狼煙間は黙殺した。 「っ……」 スポンジが脇腹をかすめた時、矢木は明らかにビクリと身悶えし、スポンジから逃れる。 「マジで、くすぐったいから!」 「うるせぇ。文句言うな」 矢木は、遠慮がちに後ろを振り返り、狼煙間の顔を見る。 そして、後悔する。肩ごしに、濡れて髪の垂れた狼煙間の顔を見ただけで、自分の今の状況を思い知らされる。自分に触れているのは、まぎれもなく狼煙間なのだと。背中を這う感触は、狼煙間の手によるものなのだと。矢木はサッと顔を戻し、顔を一層赤らめた。 「う……っ!」 狼煙間の手が脇腹の辺りに行くたび、くすぐったさで身悶えしてしまう。その無様で滑稽な様子を、狼煙間に見られている事。そして、その原因が狼煙間である事が、さらに矢木を追いつめる。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

140人が本棚に入れています
本棚に追加