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「の……狼煙間……」
矢木は、なんと言っていか分からず、言い淀んだ。矢木は不安にかられながらも、じっと小さくなって狼煙間の様子を窺う。
「最初から黙って言う事聞いてろ」
狼煙間は、スポンジで矢木の背中を擦り始める。その手つきは、矢木の想像以上に優しい。
「く、くすぐったいって……」
矢木は遠慮がちに告げるが、狼煙間は黙殺した。
「っ……」
スポンジが脇腹をかすめた時、矢木は明らかにビクリと身悶えし、スポンジから逃れる。
「マジで、くすぐったいから!」
「うるせぇ。文句言うな」
矢木は、遠慮がちに後ろを振り返り、狼煙間の顔を見る。
そして、後悔する。肩ごしに、濡れて髪の垂れた狼煙間の顔を見ただけで、自分の今の状況を思い知らされる。自分に触れているのは、まぎれもなく狼煙間なのだと。背中を這う感触は、狼煙間の手によるものなのだと。矢木はサッと顔を戻し、顔を一層赤らめた。
「う……っ!」
狼煙間の手が脇腹の辺りに行くたび、くすぐったさで身悶えしてしまう。その無様で滑稽な様子を、狼煙間に見られている事。そして、その原因が狼煙間である事が、さらに矢木を追いつめる。
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