第4章 狼の気持ち

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矢木は手近にあった服をひっつかみ、玄関に突っ走る。 すぐにでもここを出なければ、自分がどうなってしまうか分からない。取り急ぎ下着とズボンをはいて、パーカーだけ羽織った。 靴を履いている暇はない。靴を持って玄関を出ようとしている時、腰にタオルを巻いた狼煙間が、追いかけてくる。 「矢木!」 「……! ほっといてくれ!」 矢木は泣きそうな顔で狼煙間の方を見て、ドアノブに手をかけた。 今の状況から逃げられるのなら、どう思われてもいい。少なくとも、まだゲイとはばれていないようだから。それより悪い事などあるはずもない。 しかし、ドアノブは数回がちゃがちゃ鳴っただけで、開かなかった。狼煙間が鍵をかけていたようだ。防犯の事を考えれば妥当なのだが、頭に血がのぼった矢木はとっさに判断が遅れ、ドアを開けるのにもたついた。狼煙間は矢木に追いつき、矢木を強引に引き戻すと、リビングの方へ押しやる。 「どうしたんだよ」 狼煙間は、責めるような声音で矢木に尋ねる。 「お前……最近おかしいぞ」 「……」 矢木は、悄然と俯いたままで答えられなかった。
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