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「おい、聞いてんのかテメェ」
狼煙間は反応がない矢木の頬を、ぺシぺシ叩いてくる。痛い。狼煙間は、呆れたように矢木を離すと、身を起こした。
「大体、気付くのが遅ぇんだ、お前は。俺はずっと分かってたぞ」
「!」
「俺はお前の事嫌いじゃなかった。あの時も」
あの、矢木の部屋でのことだ。
「……」
「お前なら嫌じゃないと思ったから、何も言わなかった」
「!」
矢木は瞠目し、見る見るうちに真っ赤になった。狼煙間はそんな矢木を見下ろし、かすかに口の端を上げる。
「でも、お前はいつもそういう空気を避けてただろ。……これでも我慢してやってたんだよ、俺は」
狼煙間は、偉いだろうとでも言わんばかりのドヤ顔だ。矢木は、なんだよ、と小さく呟いて、浅く息をついた。
「……はは……、ほんと、馬鹿みたいだな」
矢木は安堵の涙をこぼし、そうか、と心の中で呟いた。ずっと胸の所にのしかかっていた重りが、フッと消えたようだった。
「俺……お前の事、好きでいいんだな……」
「あぁ」
「……」
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