艷色のかんざし

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艷色のかんざし

佳乃(よしの)さんよ。ずいぶん美しい(かんざし)だね」 新之助(しんのすけ)はそう言って佳乃の顔をうかがった。 佳乃は嬉しそうに微笑み、声を弾ませる。 「あら。(しん)さん、漆器がわかるの?」 「いいや、わからない。パッと見て、綺麗だと思っただけさ」 「それならあなた、お目が高いわ。この簪、結構良い値段がするものなのよ」 佳乃の髪にすっと挿してある扇形の簪は、部屋のランプの光を上品に反射している。 飾りは漆黒にあしらわれた桜の蒔絵と蝶の螺鈿(らでん)。 二本の足は動物の牙のような曲線を描いている。 たけかんむりと牙ふたつを日の上に乗せた「簪」という漢字を再現したようなそれは、新山の職人が丹精込めて仕上げた一点ものだ。 すみれ色の着物。 (あか)と言うには少し青味がかった濃い口紅。 緩く耳隠しに結われた艶のある髪。(くだん)の簪は、長い髪をまとめた後頭部下寄りに挿してある。 新之助は笑った佳乃の美しさに、たじろいだ。 「そうかい。一体誰にもらったものなのか、興味がそそられるねぇ」 「やだわ。そんな野暮なこと聞かないで」 佳乃は言葉にこそしなかったが、“言えない誰か”から贈られたものだとは認めている。 奥ゆかしさの中に微かな淫靡を感じさせる手管。 新之助は男を刺激されたように錯覚し、胸がゾクリとした。 「そりゃ悪かったよ」 「せっかく二人で話ができるんだし、もう少し色っぽい話をしましょうよ」 佳乃は更に新之助を煽ろうとする。 彼女もまた新之助の端正な顔立ちや男らしさに胸を高鳴らせているのだ。
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