1 薄月夜

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2036年、10月20日、正午丁度。 『ーーー憲法九条、戦争放棄、及び平和主義。これについて、武力行使を行うことに対し、 法を以って賛同する事に、只今より改正いたします。 及び、ここに、 ーーー第三次世界大戦にアジア軍に日本が加勢する事を宣言いたします!』 2036年。世界は荒れていた。 遡って、5日前。 転々と渡ってきたため、もうここがどこにある所で、何故来たのかも忘れてしまった。 ただ、今この瞬間にもわかる事で、また嫌でも理解出来ることは、ここが今までで最悪の場所であり、穢らわしい所である、という事のみであった。食事は1日3回。決して出る事は許されず、また叶わない。決まった時間に決まった労働をし、檻に戻され、明日を待つ。眠る奴もいるが、今の俺にはそれすらも面倒である。 俺の檻は、犯罪者達が顔色をなくして小便を漏らす程、ーー所謂殺人鬼、とでもいうのか?自分では分からないが、そう呼ばれるらしい部類に入る奴しかいない。決して自慢する訳では無いのだが、俺もその一人だ。 刑務所が変わる度に『話』をするのだが、よく聞かれるのは、何故こんなことをしたんだとか、いつから『そんな風』になったんだとか。答えは、《そんなの知らない》。生まれてきた時から俺は『こんな風』だ。俺が正しいと思う事が、世にとって間違っていただけだ。自分の正義を貫いて何が悪いんだ。出る杭は打たれる。埋まる杭は引っ張り出される。訳の解んない境界線と境界線の間の『普通』が歪んでる。 でもその答えを人は狂ってるとか言う。狂人が常人を狂ってると感じるのは当然だろう。狂ってるのはお前らの方だ。お前らいるから世界が歪むんだ。だから殺した。一日一善だ。俺は善人なんだ!ーーー・・・ でもそれも何年か前までは、だ。俺は殺人をしている、と思った。刑務所に入って、後悔したーー『何で俺はこいつらと同類なんだ』? そうだーーそうだそうだそうだ。俺はこいつらなんかじゃない! 同じ刑務所の連中を皆殺しにした。 でもそれは無駄死にじゃない。俺の贄になったのさ。『居た』人間を『在る』肉塊に変えていった。『居た』人間が哭き叫びながら苦しみに悶え、そしてかっと目を見開いて『在る』肉塊になる様は俺にとって最高のショーだった。見開いた眼球から流れた一筋の涙が感情を伝う。
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