猫神様

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 庭先に一匹の猫がいる。  それは毎朝見かける猫と瓜二つだが、一箇所だけ違う部分がある。  ――おデコが変だ。  その猫の額に、『神』と抜かれた黄金色の文字がぺたりとくっついているのである。  身じろぎしようが顔を洗おうが、何をしても外れぬその文字、異様に気になって仕方が無い。  ――悪戯だろうか?  そう思い、ちょちょいと招いて猫を呼び、膝上に乗ってきたところでその字に触れる。  軽く引っ張ってもみる。  肌に引っ付いているようで、ちっとも剥がれる気がしない。  そもそも、ここまでされて逃げない猫も猫だ。  そんじょそこらの野良猫なら、とっくに逃げていてもおかしくない。  そんな考えを浮かべたところで猫が一声静かに鳴き、膝上から降りて庭に寝転び、腹に前肢を置いてこちらを見る。  細目で見遣るその表情は、何か食わせろと言わんばかりで、  ――まあ、理性ありそうだし。  ということで、茶漬けに乗っけていたシャケの一欠片を捧げてみる。  するとすぐに寄ってきて、箸ごともむもむとやられた。  むしろ茶漬けも食われた。なんてこったい。  残さず食って水をなめた猫はこちらを見上げ、 「ごちそーさん」 「!?」  言って、そのまま庭から去った。  その後日、変わらず朝にやってくるが、人語を話したのはその一回きりだ。  けれどもその額に相も変わらず『神』の字を載せているから、まあ、そのうちまた喋るのだろう。ただ、その気にならないだけで。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!