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庭先に一匹の猫がいる。
それは毎朝見かける猫と瓜二つだが、一箇所だけ違う部分がある。
――おデコが変だ。
その猫の額に、『神』と抜かれた黄金色の文字がぺたりとくっついているのである。
身じろぎしようが顔を洗おうが、何をしても外れぬその文字、異様に気になって仕方が無い。
――悪戯だろうか?
そう思い、ちょちょいと招いて猫を呼び、膝上に乗ってきたところでその字に触れる。
軽く引っ張ってもみる。
肌に引っ付いているようで、ちっとも剥がれる気がしない。
そもそも、ここまでされて逃げない猫も猫だ。
そんじょそこらの野良猫なら、とっくに逃げていてもおかしくない。
そんな考えを浮かべたところで猫が一声静かに鳴き、膝上から降りて庭に寝転び、腹に前肢を置いてこちらを見る。
細目で見遣るその表情は、何か食わせろと言わんばかりで、
――まあ、理性ありそうだし。
ということで、茶漬けに乗っけていたシャケの一欠片を捧げてみる。
するとすぐに寄ってきて、箸ごともむもむとやられた。
むしろ茶漬けも食われた。なんてこったい。
残さず食って水をなめた猫はこちらを見上げ、
「ごちそーさん」
「!?」
言って、そのまま庭から去った。
その後日、変わらず朝にやってくるが、人語を話したのはその一回きりだ。
けれどもその額に相も変わらず『神』の字を載せているから、まあ、そのうちまた喋るのだろう。ただ、その気にならないだけで。
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