早朝 某国際空港

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「無理よ」 えっ? 自分の声かと思った。しかし、目を開けたところでぶつかってきたのは、視線ではなく背中だった。 「すみません」 もう一度あごを引いて、ゆっくり発声する。 「いいえ」 既に彼女の意識は、すでに黒ずくめの格好をした女性(おんな)には向いていなかった。 「なんでよ」 耐えきれなくなって、少しだけ視線を上げた。 注目を浴びていたのは、丸メガネが特徴的なふっくらした女の子だった。メガネや雰囲気は彼女たちと全く別物だが、その距離感はかなり近しい。認識は3人組、でいいのだろうか。 「だって、如月さんってスケートでしょ?野球とはオフシーズンが入れ違いになっちゃうじゃない」 その子と目が合った気がして、慌てて顔の向きを変えた。 どうしよう、バレてないよね。 「それもそっか。会えないもんね」 そうだよ、そうだよ。 「でもあの子もったいなかったよね。成績もよかったし人気だったし。どうして辞めちゃったんだろう」 息を吸いたい。 でも、今吸ってしまえば、荒い呼吸が目立つかもしれない。 「さあね。それよりさ」 ゆっくり息を吐きながら、スーツケースの持ち手を握りしめる。 それでも、手のひらの粘つきは拭えなかった。
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