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あれこれと考え事をしながら、家の中を掃除していく。レディース時代には、考えられないくらい穏やかな時間です。
外から聞こえる雨は、パラパラと地面を打つ音が、絶え間なく続いています。
庭先に見える二匹のカエルは、交互に喉元を膨らませています。その姿は、メンチを切りあってるようにも見えて面白いです。
カエルの喧嘩に華を添えている、一際目立つ水音。
リズムが遅くそれでいて一定の間隔。
ピン! パン! と聞こえる。
何処からかと思えば、ひさしに溜まった水がタイルを叩く音でした。
掃除をする手を止めて聞いていると、だんだん、パチン。パチン。という義治さんが碁石や将棋の駒を盤へ並べる音に、聞こえてきます。
そういえば、結婚する前だったか、付き合ってすぐだったかの頃。
浴衣を買ったのを思い出しました。
囲碁を趣味にしている義治さんに、ちょっとでも可愛いらしく見られたい。
紺色の水玉の浴衣と、黄色の碁盤のような格子柄の帯を買った。
義治さんに見せた時に
「囲碁でもするのか?」
とちょっと笑われた組合せ。
それでも、義治さんのことを思って揃えた浴衣だから、気に入っています。
夏祭りには、まだ早いけれど、せっかく思い出したから、着てみようかな。
義治さんも古傷が疼くのを忘れて、笑ってくれるかもしれません。
夕飯はまだ、出来ていない。
でも、浴衣を着て、義治さんを迎えに行って、二人並んで傘をさしながら散歩をするのも楽しそうです。
ついでに、帰りに何処かのお店で夕飯を食べて帰ろう。
今日は、掃除もそこそこに箪笥の中から浴衣を引っ張り出す。
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