あ、め

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隣の家から聞こえる声に反応して空を見上げると、黒に近い灰色の雲が空に張り巡らされていた。まだ真上だけは青く染まっているけれど、きっとすぐに僕の頭の上も、あの禍々しい灰色の雲でいっぱいになってしまうだろう。 人間は進歩した。雲を見れば雨が降るという事を知った。天気予報という科学的な力を得た。雨が予測出来るということは、それ即ち誰かが泣くという事も予測している事になる。凄い、人間の進歩だ。…でも、 (予測は出来るのに、どうして阻止出来ないんだろう。) それはとても不思議な事だと思った。雨が降ると聞くと、人は、洗濯物を取り込む。傘を持ち歩く。急いで帰るか、あるいは行き先へ向かう。降るとわかっていても、降らせない術を知らないのだ。 (そんなの進歩と言えるだろうか。) いや、実際大した進歩だ。天気予報がなければ農業の家は何の手も打てなかっただろうし、そのお陰で僕はいつも美味しいご飯を食べる事が出来るのだから。 (雨が降る…。) 誰かが泣く。 雨が降ったら傘をさせばいい。誰かが泣いたらハンカチで拭けばいい。雨が降ると、地面に水溜まりが残る。誰かが泣くと、心にもやもやが残る。雨と涙はそっくりだ。 梅雨は雨が沢山降る。だから、梅雨は人が沢山泣く。春がおわるのが悲しくて泣くのだ。僕はそれを知っている。 『私たちの関係、終わりにしよう?』     
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