雇用上の注意点

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雇用上の注意点

 小森新吾は、正月早々、爆発して、絶叫した。  おめでたい席には、姉夫婦・弟夫婦とその子どもたちがやってきて、賑やかだった。普段、年老いた父親と耳の遠くなった女中の三人で暮らしていて、シンと静まり返った家では、久しくなかった陽気な笑い声に、最初こそは楽しんでいた。  帰る実家もない老女中が、心を込めて作ってくれたおせち。お雑煮。正月料理の嫌いな新吾だったが、彼女が作った甘い栗金団だけは、楽しみにしていた。  不惑の年を、二つも越え、食欲は落ちるばかりだった。  新吾はここだけの話、十年来不能に陥っていたので、食のみが楽しみであった。それなのに、その唯一の楽しみは、年々削られていくのである。  人間五十年。あと八年したら、食欲も性欲も無くなった自分は、睡眠欲だけが旺盛で、眠りに付いたまま目覚めずに死ぬのではないか。不安になった。
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