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私の足取りは崖沿いまで進む。
この場所がいい、この子供が落ちてしまったこの場所ならば、私も一人デはない気がするのだ。
選んだ理由は多々あるが、やはり一人寂しく逝くにはなんとも悲しいものだから。
靴を脱ぎ、その下にだだ無表情のまま、自分の思い募った言葉を羅列して書いた遺書を置いた。
腕を大きく広げ、崖のギリギリに立つ。
風が少し強めに吹いて、しかし、身体を包み込むような涼しいものでもあった。その感覚はまさに風の妖精になれたかのように錯覚してしまう程だ。
怖い気持ちもないというのは嘘であるが、それ以上に清々しい気持ちも嘘ではないことが、私の心や気持ちが証明している。
風もまるで私の意思を察したかのように、追い風になって背中を押してくれている。
もうすぐ、もうすぐだ。
今こそ、この闇夜の空に向かって私の傷付いた翼が、今、大きく羽ばたくのだ。
逝く先はもちろん、現世ではない何処か。
きっと夢でもないし、もしかすると何もない世界なのだろうか。
けど、この気分の高鳴りと高揚感が、そんな疑問を カキ消す。
あぁ…風が、暗闇が、電灯が、空が、世界が。
まるで細長く伸びて過ぎ去って行く。
それを見た景色を、私はあまりにも呑気に、しかし、穏やかに思い浮かぶ。
『綺麗ね』
そんな感想が頭に過り、言葉にしようとした瞬間。
私の意識は途絶えてしまった。
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