5月9日

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5月9日

 次の日俺はベットから跳ねるように飛び起きた。ドアの隙間から入れられていた新聞の日付は5月9日(木)だった。ロビーに降りて、例の無料の朝ごはんを食う。おばちゃんのくれるコーヒーを素直に受け取りそのまま飲んだ。うまい。俺は手帳を広げて、例の「俺」『俺』の日程の間にさらにいろいろ俺の日程を書き込んだ。  いろいろ書き込んでいると既に9時近くになったので、外に出て大型の大学ノートを一冊買い、ついで9時になったのをみはからって家電量販店に入った。店には携帯電話がずらりと壁に立てかけられていてこの世界で利用するのに一本買おうかと思ったが、身分証明書の提示を求められるのでやめた。プリペイド携帯も目に入ったがこの年はすでに身分証明書の提示が必要になっているので購入は無理だった。  とりあえず自分の携帯に合いそうなACアダプターを見つけた。本体と違ってこういう部分は数年経っても余り進化していないようであった。朝一番で訪れた客に親切にしようとして、店員が携帯を貸してください、合うのを探しますと言ったが、それは念のため拒否した。  フロッピーディスクも1箱分買った。  店を出た後充電のための電源を探したが、大学の向かいの例のカフェには電源を挿せる席があるのを思い出し、またコーヒーとスコーンを頼んで、電源のある席にしめしめと座った。充電している時間がもったいない気がしたが、30分もすれば使えるようになるだろう。今日はなぜか、「俺」の姿が見えない。 俺はシステム手帳を再確認した。今日は「俺」が二時ごろ工藤結花と大学中庭で会うことになっている。それまでに一仕事できる。  充電が終わっても「俺」は来なかった。よく思い出してみると、高田馬場の塾の次の日は朝早く起きられなくてここには来ないときが多かったのだ。カフェを出て家電量販店の横の書店に入ると、三階へと上がった。そして、司法試験択一の過去問や予想問題集を片っ端から手に取り、中を調べた。 「あるある」  俺は今年の択一問題に実際に出題される問題とよく似た問題を見つけると携帯のカメラで片っ端から撮った。カメラつきの携帯がヒットするのは実はこの3ヶ月後の8月に最大手電話会社がカメラ付き携帯で市場に参入してからで、このころはまださほど普及していなかった時期だ。書店には悪いと思ったが何せ余り金を使えない不便な身分だ。  すまない。
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