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はじまり
これは私が10になったばかりの頃の話だ。
「この魔女!あんたさえいなけりゃ……っ!」
目に涙を浮かべながら、つい今の今まで私の「母」であったはずの人間は叫ぶ。お前のせいだ、お前がいなければ、と。
その時の私は特に何も思っていなかった。
あーあー、こんなに泣き喚いて、明日声大丈夫なの、と考えていたほどだ。
しかし女はふと笑った。
「……そうだ、あんたがいなくなればいいのよ」
そう言って女は私に向かってジリジリ距離を詰めてきた。
殺される、何となくそう思った。
この時初めて、背筋が凍った。今思えば、それは単に恐怖からくる寒気なのだが、当時の私はそんなことを思いつくはずもなく、何故だろうと首を傾げるばかりであった。
しかしここで殺されるほど私も優しくはない。
私は、それはもう全力で走った。
醜く泣き喚きながら、ただひたすら「母」のような女から逃げるために。
その必死の努力が叶ったのか、女は追いかけてこなくなった。
安堵すると同時に、私は思ってしまった。
「あぁ、所詮その程度だったんだ」と。
その瞬間、私の体はカッと燃えるように熱くなった。
憎い憎い憎い、あの女が憎い!!
すると、目の前にふと影が落ちた。
「……生キタイカ?」
こくり、と小さく頷くと、私の体が急に重くなった。
私は意識を手放した。
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