第1章 目撃者

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帰り道。 「矢木、行くぞ」 「……お、おう……」 狼煙間に声をかけられた矢木は、猿渡をちらりと見て頷く。やはりキスしていたのを見られたかどうかが気にかかっているようだ。 (……矢木さん……) 猿渡は逡巡したが、矢木に駆け寄った。 「あの、矢木さん、今日一緒に帰れないですか?」 「……?」 矢木は一瞬不思議そうに猿渡を見て、首を傾げた。 「ん……何か話でもあるんか?」 「はい」 「そっか。分かった」 矢木は頷き、狼煙間を振り返った。 「悪い。また今度な」 狼煙間は、不服そうに猿渡を睨み、矢木を見返す。今日は狼煙間の家に来ると矢木と約束していたのに。しかし、ZOOの後輩の相談だ。当然、狼煙間も無下には出来ない。それに、猿渡が狼煙間でなく矢木に相談するのも、頷ける話だ。 「……じゃあな」 狼煙間は不機嫌そうに踵を返し、反対の方向へと帰って行った。猿渡はそれを見て、ほっとしたように肩を落とす。
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