第1章 目撃者

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「で、話って?」  矢木は、そんな猿渡の様子を眺めていて、少し頬を緩めた。 「話……?」  猿渡は、一瞬何のことか分からないような顔で矢木を見上げ、あ、と瞬きをする。狼煙間と矢木を引き離さなければ、という思いだけで、つい話がある、などととっさに言ってしまったのだ。 「あるんだろ?」 矢木は猿渡と並んで歩きながら、猿渡を促した。猿渡は、考え考え言葉を紡ぎ出す。 「あ、えーと……、俺、塾に通おうかと……」 嘘だ。塾に通う予定などない。 「ん。いいんじゃね?」 矢木は、普通に頷き、続きを待つ。 「……でも、ZOOには行けなくなるし……」 「塾って毎日か? 空いてる日に来ればいいだろ?」 「そう……ですよね……」  不味い。話が続かない。猿渡は、何か他にいい口実はないか、と必死に頭を回転させる。 「……」 矢木は黙りこみ、首を傾げた。こんな内容のない話、犬井ならともかく猿渡がふってくるとも思えないのだが。
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