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「で、話って?」
矢木は、そんな猿渡の様子を眺めていて、少し頬を緩めた。
「話……?」
猿渡は、一瞬何のことか分からないような顔で矢木を見上げ、あ、と瞬きをする。狼煙間と矢木を引き離さなければ、という思いだけで、つい話がある、などととっさに言ってしまったのだ。
「あるんだろ?」
矢木は猿渡と並んで歩きながら、猿渡を促した。猿渡は、考え考え言葉を紡ぎ出す。
「あ、えーと……、俺、塾に通おうかと……」
嘘だ。塾に通う予定などない。
「ん。いいんじゃね?」
矢木は、普通に頷き、続きを待つ。
「……でも、ZOOには行けなくなるし……」
「塾って毎日か? 空いてる日に来ればいいだろ?」
「そう……ですよね……」
不味い。話が続かない。猿渡は、何か他にいい口実はないか、と必死に頭を回転させる。
「……」
矢木は黙りこみ、首を傾げた。こんな内容のない話、犬井ならともかく猿渡がふってくるとも思えないのだが。
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