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「でも、市ヶ谷さんが呼んでくれたから、こうして彼女と会えた」
市ヶ谷部長の気が進まなかったことは、顔を見た瞬間からわかっていた。
虎太郎さんが上司だから逆らえなかっただけだ。
かばってもらえなかった悲しみよりも、板挟みになった市ヶ谷部長がそうせざるを得なかった立場のことを思うと、そっちのほうが胃が痛い。
「そういう問題ではないんです、正善取締役」
あえてそういう呼びかたをすると、虎太郎さんはむっと眉根を寄せる。
「業務時間外によしてくれないか」
たたん、と虎太郎さんの指がリズムをつけて素早くテーブルの上で鳴らされた。
これは彼の小さな苛立ちの現れだけれど、軽快にテーブルを鳴らす彼の指がきれいだと恋焦がれたのは、いったいいつのことだっただろうか。
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